ちょっと前から耳にするGaN(窒化ガリウム)。何が良くなったの?
パソコンやスマートフォンなど、現代はさまざまなデバイスをひとり1台以上保有する時代になりました。そして、これらのデバイスを繰り返し使用するためには「充電器」が欠かせません。
最近では、カフェやファミレス、コンビニの席にも電源が配置されるようになり、モバイルバッテリーだけではなく充電器を持ち歩く方も増えてきています。ただし、デバイスを購入する際、充電器は別売りとなる場合も多いため、自身で適切な充電器を選ぶ必要があります。
例えば、出張などの外出先で充電器を使用するのなら、軽量でコンパクトな充電器が求められるでしょう。また、お昼休憩など短時間の内に充電したいのなら、急速充電に対応した充電器が必要です。
これらのニーズに応える最新の充電器として、近年注目を集めているのが「GaN(窒化ガリウム)」という半導体を使用した充電器です。GaNとはどのような特徴を持っているのでしょうか。
そこで今回は、GaNの概要やメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
GaN(窒化ガリウム)とは?
GaN(窒化ガリウム)の特徴やGaN搭載充電器のメリット・デメリットとは?
GaN(窒化ガリウム)とSiC(シリコンカーバイド)はどう違うの?今後の棲み分けは?
GaN(窒化ガリウム)とは?
「GaN(窒化ガリウム)」は、Ga(ガリウム)とN(窒素)を対等な比率で結合させた化合物です。半導体の一種であり、充電器ではスイッチ部分に採用されています。また、少し専門的な話にはなりますが、結晶バンド構造において禁制帯(バンドギャップ)のエネルギー幅が広いことから、GaNは「ワイド・バンドギャップ半導体」と呼ばれることもあります。
これまでの充電器には、シリコンを使用した半導体が多く用いられてきました。そもそも充電器に内蔵されている半導体は、電源から流れ出てくる電力をスマホなどのデバイスが対応できる電圧に調整する役割を担っています。そして、この働きをより効率良く発揮できる半導体として、GaNが注目されているのです。
充電器以外にもGaN(窒化ガリウム)が利用されている!
2014年に発表されたノーベル物理学賞では、GaN(窒化ガリウム)を用いた青色LEDの発明が注目を浴びました。その後GaNの研究が本格化し、さまざまな分野で活用されはじめています。
例えば、青色LEDの他にも自動運転・拡張現実(VR)や電気自動車(EV)、人工衛星、5G技術、医療技術などにGaNが活用されています。主にエレクトロニクス業界で研究が進んでおり、今後も先端技術や医療分野を支える半導体になっていくでしょう。
GaN(窒化ガリウム)が搭載された充電器とは?
私たちにとって身近なGaN(窒化ガリウム)技術は、スマホやパソコンなどのデバイスを充電できる「USB充電器」です。USBは「Universal Serial Bus(ユニバーサル・シリアル・バス)」の略称で、デバイスに周辺機器を接続するための規格と表現されます。近年では幅広いデバイスに使用されており、統一規格として世界中に普及しています。
GaNが内蔵されたUSB充電器はさまざまなモデルが発売されていますが、特に「USB Type-C」という端子に対応した製品が多く見受けられます。Type-Cは2014年に発表された次世代のUSB規格で、コネクタ部分に上下左右の区別がないことが大きな特徴です。また、非常に大きな電力を供給できる「USB Power Delivery(USB PD)」にも対応し、パソコンなど大きなデバイスの充電も可能となりました。
GaN(窒化ガリウム)の特徴やGaN搭載充電器のメリット・デメリットとは?
従来の充電器に使用されていたシリコン素材の半導体と比較して、GaN(窒化ガリウム)はエネルギー効率が高く、電力損失が非常に少ないという特徴があります。また、熱伝導率が高いため、放熱性にも優れています。
これらの特徴から、GaNを活用した充電器のメリット・デメリットについて確認していきましょう。
GaN(窒化ガリウム)搭載充電器のメリット
GaN(窒化ガリウム)が搭載された充電器は、「USB PD」に対応している製品が多いです。USB PDに対応した充電器は最大240Wの電力供給が可能で、デバイスを急速充電することができます。充電時間を短縮することができるので、お昼休憩などちょっとした時間の充電にもおすすめです。
また、GaNは熱伝導率が高く放熱性に優れていることから、充電器を使用する際に本体が熱くなりにくいメリットもあります。充電器の発熱は故障や火災などの恐れもあるため、GaN搭載の充電器はより安全に使用することができるでしょう。
そして、エネルギー効率の高いGaNは高出力を維持したまま小型軽量をはかることが可能です。具体的には、同出力のシリコン搭載充電器と比較して1~2まわりほどコンパクトな充電器を製造することができます。軽くて小さなGaN搭載充電器は、出張など外出先で持ち歩くのに最適です。
GaN(窒化ガリウム)搭載充電器のデメリット
GaN(窒化ガリウム)が搭載された充電器は、シリコン素材が搭載された充電器と比較してやや高価となっています。GaNはシリコンよりも製造コストが高いことが原因ですが、製造技術も日々進歩しているため、今後の価格動向が期待されます。
また、GaN搭載の充電器はUSB PDに対応している製品が多いですが、USB PDで急速充電を行うためにはデバイスや接続ケーブルもUSB PDへの対応が必要です。保有している機器や接続ケーブルがUSB PDに非対応の場合は、急速充電が行えないためご注意ください。
そして、充電したいデバイスによっては変換ケーブルが別途必要になる可能性があります。例えば、GaN搭載充電器のUSBポートがType-Cに対応していても、デバイス側がType-C以外のポートである場合は変換ケーブルを準備しなければなりません。
GaN(窒化ガリウム)とSiC(シリコンカーバイド)はどう違うの?今後の棲み分けは?
これまで、GaN(窒化ガリウム)の特徴や活用例、GaN搭載充電器のメリット・デメリットについて解説してきました。2020年には、地球温暖化に悪影響を及ぼす「温室効果ガス」の排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の達成を2050年までに目指すことを日本政府が宣言し、次世代の半導体としてGaNはますます期待されています。
またカーボンニュートラルに取り組む上で、GaNと同様に「SiC(シリコンカーバイド)」という半導体も注目を集めています。GaNとSiCにはどのような違いがあるのでしょうか。
SiC(シリコンカーバイド)とは?
SiC(シリコンカーバイド)は炭素とケイ素の化合物で、GaN(窒化ガリウム)と同じようにバンドギャップが広いことから「ワイド・バンドギャップ半導体」とも呼ばれています。特徴もGaNと類似しており、シリコンと比較して大きな電力に耐え得る性質を持ち、熱伝導率も高いです。
具体的には、シリコンを1として総合適性を定量化する「バリガ性能指数」にてGaNは930、SiCは500と高い指標で表現されます。GaNもSiCも、デバイスが高性能化する可能性を秘めた半導体と言えるでしょう。
GaN(窒化ガリウム)とSiC(シリコンカーバイド)の棲み分けは?
特徴が類似するGaN(窒化ガリウム)とSiC(シリコンカーバイド)ですが、開発目的や製造コストに合わせて棲み分けが進んでいます。
例えば、GaNの基板(ウェーハ)を製造するには高コストがかかるので、安価なシリコン基板の上にGaN活性層を形成する方法(横型構造)を用いることが一般的です。そのため大きな電流を流すことは難しく、デバイスの小型化や高周波に焦点を当てたGaNの開発が進められています。
一方、SiCの基板は低価格化が進んでおり、大口径で高品質な製造が可能です。この背景から、大電流・高耐圧を目的とした製品への普及が進んでおり、発電システムのパワーコンディショナーや電化住宅の管理システム(HEMS)などにSiCが活用されています。
パワー半導体として別々の用途で活用されているGaNとSiCですが、棲み分けが継続されるかどうかは今後の研究次第と言えます。というのも、バリガ性能指数においてSiCはGaNに劣っており、今後より高性能なGaNが普及すれば、SiCはGaNに置き換えられる可能性があるからです。
また、GaNより高性能な新半導体の開発も進められています。パワー半導体の開発競争は激化しており、今後も新技術の発展から目が離せないでしょう。
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